僕たちはお笑いをやめます

ふぃぼ・なっち「僕たちはお笑いをやめます!」
朝の会で、二人はそうクラスメイトに向かって叫んだ。
すると、クラスメイトたちは、みんな二人を白い目で見る。
担任の先生も二人のことを白い目で見ている。
先生は言った。
「あのね、ふぃぼ君となっちちゃんがどんな風に面白いのか分からないけど……」
先生の言葉を遮って、ふぃぼとなっちは言う。
ふぃぼ・なっち「みなさん、見ていてください! 今から僕たちが笑いを取りに行きます」
そして、二人は息を大きく吸った後、大きな声で言い放った。
ふぃぼ・なっち「どうもーっ!! ふぃぼ&なっちです!!」
「…………」
クラスメイトは無言のままだ。
それでも二人は続ける。
ふぃぼ「さあ、まずは自己紹介をします!」
なっち「お名前は?」
ふぃぼ「えっと……ふぃぼ(笑)です!」
なっち「えぇ~!? ちょっと待ってよ~! ふぃぼくん(笑)じゃなくて、ふぃぼだよ~!!」
ふぃぼ「はい! 次はなっち君の番ですよ!」
なっち「はい……。なっち(怒)です……」
ふぃぼ「ほらぁ、なっち君怒ってるじゃん! 早く謝りなさいよ!」
なっち「なんで俺が謝らないといけないんだよ! ふざけんなよ! お前こそ謝れよ!!」
ふぃぼ「うるさいですね! なっち君は黙っていて下さい!」
なっち「なんだとぉ!?」
ふぃぼ「いい加減にしてください!」
なっち「それはこっちのセリフだ!!」
そんな感じで漫才が始まった。
クラスメイト達は無表情のままそれを見ていた。
先生は止めようとしない。
二人とも顔が真っ赤になりながら、お互いのことを罵っている。
クラスの中は険悪な雰囲気になっていた。
その時、一人の男子生徒が立ち上がった。彼は言う。
「あの……もうそろそろ朝の会終わりたいんだけど……」
ふぃぼ・なっち「えっ?……あっ! はいっ!」
先生が教室の中に入って来た。
「はい! 今日もみんな仲良くしてね」朝の会が終わった。
しかし、ふぃぼとなっちはまだ喧嘩している。
なっち「おい、ふぃぼ! 何やってんだ!」
ふぃぼ「なっちだって、あんなこと言ってたじゃないか!」
なっち「俺は本当のことを言っただけだぞ!」
ふぃぼ「僕は嘘なんてついてないよ!」
なっち「嘘つきやがれ!」
ふぃぼ「うぅ~ん……。分かったよ! じゃあ勝負しようよ!」
なっち「おう、望むところだぜ!」二人は手を組み合った。
なっち「ふんっ!」
ふぃぼ「ぐぬぬぬ……」
なっち「はっ!!」
ふぃぼ「くっ……」
なっち「おりゃあああ!!」
ふぃぼ「負けるかぁぁ!!」
なっち「ぐぎぎ……」
ふぃぼ「むきゅ〜……」
なっち「はぁはぁ……」
ふぃぼ「はぁはぁ……」
二人は睨み合う。
その光景を見た先生は思った。
(この子達、仲が良いのか悪いのかよく分からないわね)
それから、一時間目の授業が始まった。
国語の時間である。
なっちは教科書を読むふりをして、チラリと隣の席にいるふぃぼを見る。
すると、隣ではふぃぼもこちらを見ており目が合ってしまった。
ふぃぼはニコッと笑う。
なっちもつられて笑顔になる。
授業が終わった後に、なっちはふぃぼに話しかけられた。
ふぃぼ「ねぇ、なっち君っていつも僕を見ていますよね」なっち「うん、そうだよ」
ふぃぼ「どうしてですか?」
なっち「えっと、その……ふぃぼ君って面白いからかな」
ふぃぼ「そうなんですか! ありがとうございます」
なっち「でも、ふぃぼ君ってあんまり面白くなさそうだけど……」
ふぃぼ「えぇ!? 酷いなぁ」
なっち「ごめんなさい……」
ふぃぼ「いえ、大丈夫ですよ。それじゃあまた」
なっち「ばいばーい」ふぃぼは去って行った。
その後、休み時間にふぃぼは友達の男子生徒と話をしていた。
その様子をなっちは見ていた。
ふぃぼ「それでさ、その時、先生が『なっち君はお利口さんだから、みんなで遊ぼう』って言ったんですよ!」
男子生徒「へぇー」
ふぃぼ「そこで僕がこう言いました!」
ふぃぼは両手を広げて言う。
ふぃぼ「『先生はバカですね!』って」
なっち「ブフッ!!」なっちは吹き出した。
なっちは急いでトイレに向かった。
そして、トイレの中で一人呟いた。
「なんだよ……あいつ……面白いじゃねえかよ……」
なっちはニヤけていた。
次の日、なっちは学校に行く前にお弁当を作っていた。
そして、お弁当を持って家を出る。
なっち「よし、今日はふぃぼ君の分も作ってあげよう!」
なっちは歩きながら考える。
「うーん、ふぃぼ君の好きなものといえば……カレーライスとハンバーグだね!」
なっち「それにしても、ふぃぼ君はどんな顔して食べるのだろう? ちょっと楽しみだな〜」
なっちはスキップしながら歩いて行く。
その時、ふぃぼが歩いているのを見つけた。
なっちは声を掛ける。
なっち「おはよう、ふぃぼ君!」
ふぃぼ「あっ! なっち君! おはようございます!」
ふぃぼはとても嬉しそうである。
ふぃぼ「なっち君も今から学校に登校するんですか?」
なっち「うん、そうだよ!」
ふぃぼ「奇遇ですね! 一緒に行きましょう!」
二人は並んで歩く。
なっちはふぃぼの顔を見て気付く。
「あれっ? ふぃぼ君、昨日より元気がないような……」ふぃぼ「実は朝ご飯を食べ忘れちゃったんですよね。ハハッ」
なっち「それは大変だ! じゃあ、俺のお弁当分けてあげるよ!」
ふぃぼ「本当ですか! ありがとうございます」
二人は楽しく会話をしながら歩いた。
ふぃぼ「ところで、なっち君ってよく僕のこと見てますよね?」
なっち「えっ!? いや、あの……」
ふぃぼ「どうしたんですか?」
なっち「そ、その……。ふぃぼ君が面白いからだよ」
ふぃぼ「そうなんですか! ありがとうございます」
なっち「でも、ふぃぼ君ってあんまり面白くなさそうだけど……」
ふぃぼ「そんな事ないですよ!」
なっち「本当に?」
ふぃぼ「はい、だって……」
ふぃぼは真剣な表情で言う。
ふぃぼ「なっち君が隣にいてくだされば、僕はいつでも楽しいです!」
なっち「ふぃぼ君……」
ふぃぼ「それじゃあ、また学校で会いましょう!」
ふぃぼは走って行ってしまった。
なっちは頬を赤く染めている。
なっち(なんなんだろ……この気持ち……)
その日の放課後、なっちはふぃぼと遊ぶ約束をしていた。
しかし、ふぃぼは用事があると言って帰ってしまったのだ。
なっちはその帰り道、公園でブランコに乗っている男の子を見かけた。
その少年は悲しげな顔をしていた。
なっち「ねぇ、何しているの?」
その少年は振り返る。
そこには一人の女の子がいた。少女は金髪に青い瞳をしており、まるでフランス人形のようである。
彼女は綺麗な声で言った。
「私は……誰なのかしら……」
なっち「えっと……」
なっちは困っている。
すると、その少女はブランコから降りて近づいてきた。「私の名前は『アネモネ』よ」
なっち「俺は『なっち』って言うんだ。よろしくね」
アネモネ「なっち……いい名前ね」
なっち「ありがとう!」
アネモネ「ねぇ、なっちは私のことが知りたいのでしょう?」
なっち「まぁ、そうだね」
アネモネ「教えてあげてもいいわよ」
なっち「ほんと!?」
アネモネ「えぇ、ただ条件があるけど」
なっち「条件?」アネモネはニヤリと笑う。
アネモネ「私が退屈しない話をすることよ」
なっち「わかった! 任せてよ!」
なっちは笑顔で答えた。
アネモネ「まず最初に聞きたいんだけど、なっちはどうして私のことを知りたいと思ったのかしら?」
なっち「それは……」
なっちは少し考えてから答える。
なっち「うーん、なんとなくかな!」
アネモネは呆れたように言う。
「なっちって変ね」
なっち「そうかもしれない」
アネモネ「でも、そういうところが気に入ったかも」
なっち「えへへ」
アネモネは笑みを浮かべる。そして、何かを思い出したかのように言う。
アネモネ「あっ、自己紹介を忘れていたわ。私の名前はアネモネ。年齢は9歳よ。好きなものは猫。嫌いなものは犬。特技は歌を歌うことよ。将来の夢は歌手になることかしら?」
なっち「すごい! 全部当たってる!」
アネモネ「フフン、当たり前じゃない。次はなっちのことを聞かせてくれるかしら?」
なっち「もちろん!」
なっちは自分のことを話し始める。
自分がどんな人間であるかという事や、今までにやったことや、面白かったことなど、たくさん話した。
アネモネは興味深そうに聞いていた。
一通り話し終わると、なっちは質問をした。
なっち「ところで、アネモネちゃんってどこから来たの?」
アネモネ「……」
なっち「あれ? どうしたの?」
アネモネはしばらく黙っていた。
やがて、ゆっくりと口を開く。
アネモネ「……わからないわ」
なっち「えっ?」
アネモネ「覚えていないの……」
なっち「どういうこと?」
アネモネ「……思い出せないの」
そう言って、アネモネの目には涙が浮かんでいた。
アネモネ「私は一体……何者なの!?」
なっちは慌てて慰めようとする。
なっち「だ、大丈夫だよ! きっと見つかるよ!」
アネモネ「無理なの……」
なっち「そんな……」
アネモネ「だって……」
アネモネの声が震えている。
アネモネ「だって……私……記憶喪失だから……」
なっち「えっ!?」
アネモネ「気がついた時にはここにいたの……」
アネモネは悲しそうな表情で話す。
アネモネ「この公園で目が覚めて……誰もいないから寂しかった……。でも、ある日なっちが話しかけてくれた。嬉しくて、毎日ここに通っていたの。なっちと一緒にいるだけで楽しかったわ」
なっち「そっか……」
アネモネ「だけど……もう限界……辛いの……」
アネモネは泣いている。
なっちは優しく語りかける。
なっち「じゃあ、俺も一緒に探すよ!」
アネモネ「……えっ?」
なっち「俺も手伝うよ。友達でしょ?」
アネモネ「でも……」
なっち「一人で抱え込むより二人で悩んだ方がいいと思うんだ」
アネモネ「……ありがとう」
アネモネは再び泣き出してしまった。
なっち「よしよし」なっちはアネモネを抱きしめる。
しばらくして落ち着いたアネモネは言う。
アネモネ「ねぇ、なっち」
なっち「ん?」
アネモネ「私の家族になってくれる?」
なっち「うん、いいよ」
アネモネ「本当に?」
なっち「本当だよ」
アネモネ「ありがとう」
なっち「気にしないでいいよ。困った時はお互い様だしね」
二人は笑顔になる。すると、チャイムが鳴る。
先生「みなさん、席についてください」
クラスメイト達は急いで自分の席に戻っていく。
ふぃぼとなっちもそれぞれの席に戻る。
こうして朝の会は終わりを迎えた。
アネモネは教室を出る前に振り返り、なっちに言った。
アネモネ「また明日ね、なっち」
なっち「バイバーイ」
アネモネは手を振ってから教室を出ていった。
その後、なっちは朝の会を終えた。
アネモネは昼休みになると、すぐにどこかへ行ってしまった。
放課後になり、ふぃぼとなっちとアネモネはいつものように公園に集まる。
三人はベンチに座って話をする。
アネモネ「それじゃあ、これから私の家を探しましょうか」
なっち「そうだね」
ふぃぼ「わかった」
アネモネ「まずはここから近いところを調べましょ」
なっち「うん!」
三人は町中を歩き回る。
しかし、なかなか見つからない。
やがて、日が暮れてきた頃、アネモネは言う。

 

 

(フリーアカウントの利用上限が来たため、完)